ユーザの視線の行方(アイトラッキング調査)
WEBの仕事に何らかの形でかかわっていたら、ヤコブ・ニールセンの名前くらい聞いたことがあるだろう?そう、WEBサイトの「ユーザビリティ」の権威だ。
せめて一冊は著書を読んでいるだろう…、とはいわないが、知らなかったらちょっと問題だ。あなたは圧倒的に勉強不足、もしくは知識が著しく「偏向」している、と断言する。傾倒しているか否かや、好き嫌いのことを言っているのではないので、誤解のないように。
『Designing Web Usability』の日本語翻訳本が出版されたのは、2000年だったと思う。当時の私は(今はどうか?ということはここでは置いておく)、WEBページは「テキスト」情報を収集するためのツールとして捉えていたので、多くの日本産WEBサイトの見難さにうんざりしているところだった。本当にどれもこれも「ユーザビリティ」が悪かったのだよね。
そんな時に、上記の翻訳本『ウェブ・ユーザビリティ― 顧客を逃がさないサイトづくりの秘訣』を読んで、この考え方に飛びついたのをなつかしく思い出す。
まわりの皆に、エバンジェリストよろしく推薦して歩いた。ヤコブ・ニールセン氏来日のおりには、高い金をはらって講演を聴きに行った。つまらなかったけど。
ある企業サイトのリニューアルコンペに参加したときも、「これからのWEBサイトはコレです!」と、
- 画像中心ではない
- 最小限の画像は、せめて、極力軽く
- ユーザーがクリックしやすく、今どこにいるのかがいつも把握できて、いつでも元のページに戻れる
- テキストをしっかり読ませて納得させる
- ユーザビリティに富んだ
WEBサイトを作りましょう、と熱弁をふるったこともある。
他社さんが、重厚なA3のカラフルかつ装飾過剰の企画書も持って来ているところに、手ぶらで行って、PCとネットを借りて、じかにWEBサイトを表示させながらプレゼンをした。
結果?…それは…、ええと…、見事に袖にされましたよ。
他社さんの提案を元に出来上がったページを見て愕然とした。
トップページでいきなり意味不明のFlashムービーだ。スキップボタンはなく、あしひきの山鳥の尾のしだり尾の無意味なムービーが終わると、やっとメニューが登場する。その後もムービーはうるさくエンドレスに流れている。ページ中に入ると、この手のページではなぜかお約束のように、フレームが切ってある。メニューどころか、小見出しも画像で出来ている。使われているイメージ画像は超低圧縮率の重量級だ。メインページにはロゴすら入っていなくて、どこの会社のページかもわからない。検索エンジンに拾われ、直接表示されてしまったら、フレームセットに戻る方法がない。幸か不幸かトップページに戻れるとまたエンドレスFlashムービーが待っている。
ISDN時代の鈍行列車時代でだ。きっとこの制作会社は、紙屋さん上がりの「デザイン原理主義者」なのか、出来上がりをローカルでしかチェックしていないんだろう。
えッ?その制作会社の名前知ってるかって?…、知っているよ。でも言わない。
そりゃあ、落選するよね、と納得した。あの会社はこういうのが欲しかったんだ。そういえば、「画像も重要だよね」などというひそひそ話しがかわされてもいた。そこはフォローしたつもりだったが、ここまでとは。
ま、典型的な事前調査不足だったということだ。
そもそも、「ユーザビリティ原理主義者」のニールセン氏の言うなりになって、コーポレートサイトを作っていたら、限りなく100%に近いクライアントからは見放されてしまうだろう。一見しての差別化を求められているから、それなりにデザインにこだわる必要がある。たまにはトリッキーなこともやってみる。いずれにしろ、いつの時代もどんな世界も、どちらの側の原理主義者にも気をつけたいものだ。
といっても、ニールセン氏の提唱する「WEBユーザビリティ」を否定するものではない。たいていの原理主義者は良いことを言っているものだ。ただし、鵜呑みにしないで、自分で判断咀嚼してから取捨選択をしようじゃないか、と自戒しているだけなのだ。
その後もニールセン氏の著書は大いに参考にさせてもらっている。WEBサイト『Jakob Nielsen博士のAlertbox』はRSSフィードで定点観測している。最新の記事、
- 派手な体裁、奇をてらった言い回し = まるで広告 = 無視される始末に(2007年9月4日)
- バナーは目に入らないのか?〜新旧の知見(2007年8月20日)
には大いにうなずかせてもらった。特に、検索から、ナビゲーションから、その他からの、ページへの到達方法の違いによる、アイトラッキングの変化は興味深い。
不幸にして、このWEBサイトを参照していない人がいたら、バックナンバーをひと舐めすることをお勧めする。
ただ、このサイト、バックグラウンドとテキストの色のバランスがひどく悪く、笑っちゃうくらい「ユーザビリティ」が悪いんだよね。こんな有名なページもあることだし、公開された当時は、反面教師としてのジョークかと思ったが、そうではなかったらしい。
じっくり読みたいページ毎に「スタイルシートを使用しない」にチェックを入れるのがめんどうだ。それでもなお、一読の価値がある。